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<超高齢社会×丸川珠代>
#7-6 ゲノム医療時代に突入!?1人1人に合わせた医療が受けられる

これからはゲノムを医療の基盤にしなければならない

(※この対談は2020年1月25日に収録されました)

丸川 そうなんです。そしてもうひとつはね「Precision Medicine」という言葉はお聞きになったことはありますか?オバマ大統領の時に precision medicine initiative(精密医療イニシアティブ)ということを発表されて、プレシジョンってプリサイス=精密ということなんですけれども、医療は今、万人のための医療なんですね。ある患者さんの群に対して、このグループにはこの薬を投与しました、このグループにはこの薬を投与しました、効いた人の数が多い方の薬が標準治療になります。ところが患者さん一人一人は、それこそゲノムレベルで見ると皆体質が違うんですね。その体質に合ったものを使えば、もしかするとこの患者さんは標準と言われている薬ではない方を使った方が効くかもしれない、ということが分かってきたんです。

山本 やはり個別性が相当出てくるということですね。

丸川 ですので、クオリティデータの医療データと、それぞれのゲノムデータ、つまり皆さんの染色体の紐に書かれている30億塩基のデータをですね、タンパク質をコードしている30億塩基対の中に2万5千ぐらいと言われているんですが、駅のようにして遺伝子と言われる皆さんのタンパク質をコードしている暗号部分があるんですけど、タンパク質はそれによってアミノ酸をどんな風につなげなさいという暗号がそこに書いてあるんですが、それはタンパク質で作られるんですね。これもこれもタンパク質です。
皆さんの体の中で機能を動かしている酵素やあるいはホルモンはタンパク質でできています。つまりタンパク質で体が機能しているんですけど、それをコードしている部分、これはゲノムの中でもエキソームというんですね。このエキソームをまず解析するという研究が世界でどんどん進んで、だいぶエキソームのことは分かるようになってきたんです。だけど実はタンパク質がどういう風に現れてくるかということを左右しているのはそのタンパク質をどう作るかというところ以外のゲノムに書かれているんじゃないかという話になって、全エキソームの次は全ゲノムの解析をやらなきゃいけない、ということで今研究がどんどん世界中で走り出しているんですね。

山本 ゲノムはやはりすごく重要ですよね。遺伝子情報は。

丸川 イギリスはもう10万人分のイギリスの人達の全ゲノムの解析を、一昨年の12月に終えたということで発表しています。私たちはこの(2019年)12月末にようやく、だいたい10万人分ぐらいのゲノムをここ2~3年で先行解析しますという計画を作りました。私ずっと去年の年末からこのゲノムの計画を作るのに取り組んでおりました。

山本 先生は今ゲノムに取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

丸川 そうですね、データヘルス推進特命委員会がんゲノム・AI等ワーキンググループというところの主査をやっているんですが、なかなかまだ議員の中でもゲノムがどんな風に役に立つかということは、分かっていただけない部分もあります。今民間のゲノム検査っていうのが先走っていますけれども、癌の治療をするような場合には本当に何十回もゲノムを読むんですね。全ゲノムを読むわけではなくて、本当に限られた遺伝子のゲノムですけど、深く深く読んで間違いがないかということ、確度を高めていくんです。2004年に人間のゲノムを読むのを終わったわけですけど、1人の人のゲノムを読むのに13年で30億ドルかかったんですよね。今は1人の人の全ゲノムが1日で10万円で読めるんです。

山本 相当低コスト化されましたね。

丸川 そういうことがあって、1人ひとりの体質をゲノムで見ていくということが前に進められるようになってきました。ですので、特に癌の治療が先行していますけれども、皆さんの遺伝子を検査して、皆さんの体質に合った薬を用いる。そのことによって患者さんは副作用から解放される。私たちは合わない薬、高額な薬を患者さんに強いることから解放されるんです。ゆくゆくはこれを癌の治療だけではなくて様々な医療の治療の部分、また予防の部分に活かしていくことによって、医療の質を上げながら医療費を抑制していく事が出来る、というのが今FDAが取り組んでいる考え方でもありますし、私自身がゲノムを医療の基盤にしなければならないと思っているその根底にある考えなんです。

山本 それは全員ハッピーですよね。

丸川 そうなんです。

山本 抗がん剤などは合わない時にすごく副作用が強いですよね。そこが事前にチェックできて、自分に合うものを投与していただけるのであれば、すごく皆さん治療中のQOLが上がりますよね。

丸川 去年の6月にがんゲノム検査のパネル検査、これは遺伝子を100以上まとめてチェックすることができるんですね。皆さんの遺伝子変異がその癌に関わる遺伝子の100以上の遺伝子、どこに変異があるかを一度に検査できる。そういうパネルを保険適用にしたんです。1回65万円なんですけど。これが残念ながら今まだ標準治療の後の患者さんしか使えないんですね。年間1万数千件しか今の状況だと適用ができないんです。皆さんが抗がん剤で免疫機能に傷を受けて、免疫機能が弱った状態で免疫に関わる治療を始めるよりも、抗がん剤治療を受ける前に皆さんが免疫に関わる機能の高いうちに、免疫に働きかける薬を使えた方がいいですよね。

山本 そうですね。それで(免疫が)働いてくれている状態からやった方が、倒すべきものが少なくなっているということですよね。

丸川 ですので、それが叶うように是非科学的なエビデンスをいち早く積み重ねていって、できればまずこの遺伝子のパネル検査を、標準治療の前に持ってくることができないかという努力を今始めているところです。

山本 まだまだやっぱり医療は進化しますね。

丸川 進化しますね。本当にヨーロッパの一部の国では血液検査の結果と同じように、自分の主治医がゲノム検査の結果を見て薬や治療法を選んでいるところもありますので、将来的には日本でも今皆さんがやっていらっしゃる血液検査と同じようにゲノムの検査を行って、皆さんに合う治療、1人1人に合う治療を選んでいく時代がそう遠くない未来にやってくると思っています。

山本 それは国民の皆さんからしたら、本当に幸せなことですからね。やっぱりできるだけ苦痛を受けずに治療を受けられるという事は皆さんも望んでいると思うので、私もそれを是非応援しております。

丸川 是非、日本の医療は潜在的なクオリティデータがあるからこそ、いきなり世界のトップに躍り出る力を持っています。その環境整備を急いでやっていきたいなと思っています。

山本 丸川先生、今日はどうも本当にありがとうございました。

丸川 ありがとうございました。

山本 東京オリンピック・パラリンピックのお話からゲノム医療のお話まで、非常に幅広くお話しいただいて私もすごく勉強になりましたし、医療・介護はこれから先まだまだ発展するなという風に感じましたし、個別化医療がどんどん世界でも進んでいく中で、日本がトップランナーになれることがこれだけあるんじゃないかということにも思えますし、今回の「VISIT」「CHASE」の話とか、標準化が始まって「動いているな」という実感はお話しして感じました。東京オリンピック・パラリンピックで世界中から注目されるというのはある意味心地良いというか、日本の良さをどんどん出していけるチャンスだなというのは本当に感じました。

丸川 そうなんです。ですから「東京オリンピック・パラリンピックで何がやってくるの?」じゃなくて「このチャンスを活かさなきゃね!」と皆様に思っていただくことが一番いい効果を生み出すことなんですね。これを機会に、しっかりこれをジャンプ台に使っていこうという気持ちを皆に持っていただきたいと思います。医療や介護の現場で1人1人の医療者や介護者の皆さんが真面目に積み重なって来て下さっていることが、ある時はデータという形で、ある時は標準化という形で、見える化されることによってものすごい価値を生み出すんですね。もうこれを活かさない手はないと思っていますし、これを活かすことによって私たちはこれからの高齢化社会もトップランナーであり続けられるということを確信しています。

山本 世界を救うのは日本かもしれないですね。

丸川 そうです!日本です。

山本 そうですね。是非先生、これからも色々教えてください。非常に期待しております。

丸川 こちらこそよろしくお願いします。ありがとうございます。

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