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<超高齢社会×丸川珠代>
#7-5 世界を救う薬を開発するためには「リアルワールドデータ」の活用が重要

「リアルワールドデータ」活用の必要性

(※この対談は2020年1月25日に収録されました)

丸川 けれども医療の世界は既にもう様々な電子的なカルテを導入していることがあって、このシステムの間を乗り越えることにものすごく苦労しているんですね。先程から申し上げているとおり、結局人工知能もクオリティデータがないと育たない。

山本 そうですね。

丸川 クオリティデータを評価して次のプランを作る、あるいは次の医療なり介護を作るということをしていかないと意味がないので、クオリティデータが我々は欲しいわけなんですが、それを作るためにはデータがきちんと構造化されて標準化されている形で収集されて統合的に分析されないと意味がないんです。この構造化、標準化というところ、残念ながら同じ病院の中でもカルテのベンダーさんが違ったり、同じベンダーさんでも構造化が違っていたりするんですね。これはいろんな歴史を踏んできた結果、継ぎ足し継ぎ足しして皆大きくなってきたわけですから仕方のない部分もありますが、例えばアメリカでは Office of National Coordinator for Health Information Technology (ONC)というオフィスがありまして、ここがそういう IT ソフトウェア機器の標準を政府として認証し推奨しておられるんですね。認証制度があって、これで逐次改定をされているわけなんですけれども、Electric Health Record、日本でいえば電子カルテに相当するものなんですが、こういうものはその認証を受けていると補助金が受けられるということをずっとやってきたわけなんですね。

山本 アメリカはそういう制度なんですね。

丸川 そうやって精力的に国家プロジェクトとして標準というものを導入していって、電子化と同時にアメリカの場合は進めてきたんですが、結果的にそれを今度は相互互換性を担保するということも ONC (Office of National Coordinator for Health Information Technology) という役所の中の部局がやっていまして、相互互換運用のための標準規格を、またそこのオフィスが出していて、それを用いることによってそれまで別の基準や規格で集めていたデータを相互に運用できるようになってきているんですね。そういうものを政府が主導してやっているのがアメリカなんです。
それはすなわち、それだけヘルスケアの世界においてデータを活かすことに意味があるということを見出しているからなんですね。その意味というのは結局、医療の世界ではアメリカでもどんどん、どんどん医療費が膨らんできている。それは1つには高齢化が進んでいることがあります。
また1つには医療が高度化していることがあります。それは皆さんもよく最近ニュースでお聞きになるように、新しい癌の治療薬は1回で3800万円するらしい。オプジーボが出た時も3000万円する。1回の治療で。今1/4に引き下げられましたけども。こういうものが世の中にどんどん出てくるようになりました。
おそらく今認知症の前段階での治療と言うか予防と言うか、何と言うか難しいんですが、溜まっていくタンパク質を除去することができる薬が、早い段階で、ですけれども、繊維化する前であれば除去できる薬が上市されるんじゃないかというニュースが出ておりますけども、これも「バイオ医薬品」と言われる、いわゆる開発にとてもお金がかかり、作るためにもお金がかかる医薬品で、こうしたものが私たちの医療保険制度の中に取り入れられるようになってくると、これは本当にどうやってこの高度化していく医療を今の医療制度の中に取り入れていくのかというのは、とっても大きなテーマになるんですね。

私は今からその薬を本当に国民の皆さん使っていただきたい。だけど1回何千万円もした時にどうするかとものすごく今から考えているわけなんですね。
アメリカでは同じような状況を踏まえていかにして薬の開発コストを下げていくか、しかもその今ある医療のデータ、これを「リアルワールドデータ」と言うんですが、このリアルワールドデータを活用することでどうやって医薬品の開発をより安く、そしてしかもより早く、より安全にしていくかについて、薬事行政をやっている FDA(アメリカ食品医薬品局 ) と、それから保険会社の皆さん、それから創薬の皆さん、企業の皆さん、これが一緒になって今議論を始めようとしているところなんです。
既に FDA 、日本で言うところの PMDA (医薬品医療機器総合機構)にあたりますけれども、薬事承認をやっている機関は、「リアルワールドデータ」がどうすれば薬事承認に活かせるかを段階的に研究して、それを取り入れ始めているんですね。その「リアルワールドデータ」をどこで活用するかと言うと、まさに薬を最後に世に送り出す前に比較対照群を置いて、患者さんの群と比較対照群でその薬の有効性・安全性を最終的に確認する第3層の「治験」というものがあります。このコントロール群を形成するのに大変時間とコストがかかります。これをデータに置き換えられないかということを進めているんですね。

山本 治験をデータ化するんですね。

丸川 だから皆さんの治療や医療の中から生み出された、エビデンスと呼べるレベルにまで洗練されたデータ、確度の高いデータを抽出して、それが比較対照群として活かせるかどうかということをずっとやってきているのです。先般、元 FDA の長官で、とても熱心に FDA の改革に取り込まれた方が私のところにお越しになって、「是非一緒にやろう、日本でもこれを進めよう」とおっしゃっていただいて、また今度おいでいただいて勉強したいと思っているんですが、とにかく私たちも最新で最高の医療を日本の皆さんにお届けし続けたいと思っているんです。でもそのためにはどうやって医薬品の開発を早く安く安全にできるかということを一緒になって世界のトップと考えていかなくちゃいけないと思っているんです。
そのためには良いデータをしっかり蓄積して集めていくことが必要で、どうしても医療現場の皆さんにこのことをご理解いただいて、忙しい臨床の現場でうまく良いデータが集められる環境を整備していきたいなと思って取り組み始めたところです。

山本 どうしてもそのデータの標準化というのが、どこにどう使われるのかが多分皆さんわかってない部分があると思うのですが、国際競争力もあると思いますし、日本がそういった世界を救う薬を作れるという可能性も出てきますし、おそらくアメリカに比べて日本は国民皆保険なので、もっとデータの質というか、しっかりとした網羅性というか、本当はちゃんと取りやすいはずですよね。

丸川 そうなんです。実は「日本のデータがクオリティデータだ」といって厚生労働省は憚らなかったんですね。それはつまり国民皆保険で、同じ仕組みの上で医療を行っているので、情報が均質であるという事に起因しているんです。ただ標準化されてなければ、電子化されていなければ、これは活用できないのが今の世界の状況なので、まさに取り組みは始まったばかりですが、とても急いでやりたいと思っています。

山本 なるほど。でも既に前例がアメリカで始まっているのであれば、そういったことに効果があるということがだんだんわかってくると思いますし、日本の場合は国民皆保険なので、さっきのVISIT・CHASEみたいな形で決まってビシッと行ければ、もしかしたら一気に進むかもしれないですよね。

丸川 そうですね。相互互換性があるとか、相互運用性のあるデータにどれほど価値があるかということを、私たちがもっと目に見える形で患者さん、あるいは医療機関の皆さんにもお伝えをして、介護のように早くそこにたどり着けるといいなと思っています。

山本 それによって開発コストが下がれば、より良い薬を国民皆さんが使えるようになる可能性も、もっと上がるということですよね。

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